はじまりは聖なる夜
ケーキを1ホールごと食べていい日だとか、丸焼きした鳥を1匹そのまま食べていい日だとか、夢の中の夢でしか叶わないであろう願望をベラベラ語る上司と同僚に、新八は酷く悲しくなった。
常に金欠、借金まみれの万事屋に楽しく過ごすクリスマス…なんてあるわけがない。
「いらっしゃーい!」
雪が降りそうな寒空夜空の元、可愛らしいサンタクロースの衣装を身に纏う万事屋三人衆は、ようやくこぎつけたケーキの路上のバイトに精を出していた。
「いらっしゃーい!ケーキいかがスか〜」
「ケーキ買えヨそこのチャラ男」
「買わなくていいぞ〜、売れ残りは俺のだから」
「マジでか!だったら今食べても問題ないネ!」
「あるに決まってんだろぅがアァ!!!」
商店街のケーキ屋の前で新八は叫びがこだまする。
大きな看板片手に立ち仕事する新八をよそに、銀時は面倒臭そうに椅子へもたれかかり、神楽に至ってはヤンキー座り。
「銀さん!神楽ちゃん!二人ともしっかり働いて!!今日の稼ぎによって年越せるかどうかってとこなんですよ!!」
そう叫ぶ新八はとても切実だ。
銀時と神楽はハァイ、空返事。
どう見てもケーキを売る気はない。
◆
そんな二人に苛つきながらも、新八はケーキの路上販売の声出しを続けた。
こうなっては、万事屋の未来は新八の手にかかっている。
「ケーキいかがですか〜!」
「安いよ安いよ〜」
「買うヨロシ!」
路上販売を始めてからしばらく、新八の頑張りのおかげがケーキの売れ行きは上々、銀時も神楽も少なからず手伝ってくれるようになった。
ケーキ屋の店主から、完売させたらボーナスもあげる、との話も聞いている。
完売まであと一息、という頃、見慣れた黒い服を来た淡い茶髪の青年が三人の元へ近付いてきた。
「おや、お揃いでィ」
「沖田さん!」
仕事終わりか、または仕事途中か、隊服を来た沖田は一人。
「今日は?お仕事ですか?」
「あぁ、クリスマスですからねィ、町の交通整備でさァ。もうすぐ終わりますぜィ」
「もうすぐ?じゃあ今サボり…?」
「…………いやぁ旦那、寒空の中仕事なんてお互い大変ですねィ」
図星なのだろう沖田はサラリと新八の言葉をかわし、銀時へ話題を振る。
呆れる新八だが、沖田に逢えたことは少なからず嬉しかった。
(…偶然でも、ラッキー……)
新八は少し、頬を赤く染めた。
◆
「よぉよぉ沖田君、もうそろそろ行った方がいいじゃね?」
「連れねぇなァ旦那ァ」
「お前がいると多串君も来ちゃうじゃん。そうなるとこっちが仕事出来なくなるんだよ」
「そーヨ、さっさと去るネ!」
新八の心中とはよそに、沖田を追い返そうとする銀時と神楽。
この二人は少なからず新八に気持ちに気付いているが、相手が沖田である。
いくら新八のためとはいえ、ドSとくっつかせたくないと言うのが銀時と神楽の言い分だった。
そんな事を知らない沖田は、へいへい、とその場から歩き出した。
「………あぁそうだ。すいやせんが、ケーキ1ホール売って下せェ」
ふと思い出したように、沖田は再び三人の側へ寄り、ポケットから財布を取り出した。
「え?あ、はい…2100円です。屯所で皆さんと食べるんですか?」
「冗談よして下せェ、何が悲しくてクリスマスにムサいオッサン共とケーキ食うんでィ」
「おやおや〜、もしかしてコレ?」
そう言って銀時はニヤニヤとイヤラシイ顔をしながら小指を立てる。
「ま、そんなとこでさァ」
いつもとは違う、見たこともない優しく微笑む沖田の顔。
ズキリ、と新八の心を締め付けた。
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