部屋に戻ってからの新八は、読むと言った筈の本にも手をつけず、ただ机に向かってぼんやりとしていた。


同室の3人は皆部活で当分戻らない。
いつもなら自分もまだ帰寮している筈のない時間帯だ。


(…ここんとこ、本当に集中出来ないんだよなぁ)


原因は分かりきっている。


(本当に、何がそんなに気に入ったんだか)


背もたれを軋ませて天井を見上げる。
目を閉じれば、あの目立つ容貌が即座に浮かんだ。


「なんか、流されかけてる…?!」


思わず頭を振って、浮かんだ映像の削除を試みる。
が、一度浮かんでしまったが最後、バージョン違いの映像が次々に浮かび、消える気配はなかった。


「ああもう、どうしろってんだ…」


ガタンとパイプ椅子を鳴らして立ち上がり、ベッドに潜り、カーテンを閉める。


「…何だかフテ寝だよこれ」


仰向けになると、上のベッドの底が見えた。
主は悩みのタネ、沖田。


「誰のせいだよ、本当に…」


目を閉じる。
とにかく、考えるのをやめたかった。


新八は、いつの間にか寝息を立て始めていた。








それから45分後。


2B6号室の扉が勢い良く開かれ、

「ただいまでさァ!!」

と、廊下中に響きそうな声で沖田が室内に飛び込んで来た。


「あれ…」


いくら待っても、聞きたくて堪らなかった新八からの「お帰りなさい」が聞こえて来ない。

良く見れば部屋には誰もいないようで、4つの机はもぬけの殻だった。


「新八ィ、どこに…」

行った、と呟きかけた沖田は、すぐ横のベッドのカーテンがキッチリと閉められているのに気付く。

「新八…?具合でも…」


さっきは特に何でもなさげだったのに、とそっとカーテンからベッドを覗き込んでみる。


「…寝てたんですかィ」

軽い寝息にホッとする。

荷物を机に置き、また新八のベッドに近付いてしゃがみ、カーテンをめくる。
そのままカーテンの中に上半身を突っ込んで、ベッドの縁で頬杖をつく。


「…」


そっと、新八の髪に触れる。
自分のそれとは違う、サラサラとした指通りの良い黒髪が気持ち良い。