「ず〜る〜い〜!!新八ばっかりずるいアル!
ワタシも海に行きたいアル!銀ちゃん連れてってヨ〜!!」

翌朝、といってもすでに時計は11時を回ろうとしている万事屋の居間で、山姥のような寝癖を付けたままの神楽がタマゴかけご飯を片手に口を尖らせた。

外はもう完全に日が昇り切って、今日も短い夏を謳歌する蝉時雨が耳に痛い。
ほぼ真上にある太陽が、目に痛い程の白い光りを投げ、今日もこれからうんざりするぐらい暑くなると言っているようだ。

年間を通しても、そうそう遅くまで眠ってなどいられそうにない中、相も変わらず朝に弱い銀時と神楽は、数分前に新八が万事屋に着いた時は、それぞれ額からダラダラと汗を流して布団を蹴り飛ばしながらもまだ眠っていた。

絶対にそのうち脱水症状とか起こすだろうなと思いながらも、新八は二人を叩き起こし、それから事務所の予定表を見て、自分の記憶通り、仕事の予定が向こう一週間は一切入ってないことを確認した。

それからいつものように、まだ寝ぼけ顔の上司と同僚の尻を叩いて顔を洗って来させると、手早く準備した朝食を食べさせながら、夕方から沖田と海に行くのでしばらく休みを取る旨を告げた。

「ね〜、銀ちゃんワタシも海行ってモサモサのヤキソバ食べたいアル!」
「あ〜、も〜、朝からうるせーな」

新八だけ海でリゾートというのが納得いかないらしく、自分も行きたいとごねる神楽に、銀時は味噌汁を啜りながら渋い顔を作る。

「こっちは二日酔いで頭痛ェんだから静かにしろ!!
おい、新八!もううるせーから、お前ら神楽も連れてってやれよ。
その間は万事屋盆休みって事にでもしといてやるから」
「えっ!ダメ!ダメです!今回は神楽ちゃんは絶対ダメ!!」

二日酔いで若干むくんだ顔をしかめて、無責任に神楽の同行を促す銀時に、慌てて大袈裟に手を振りながら新八は却下を出した。
何せ新しい出会いを求めに行くのに、女の子の神楽を同行させては出会えるモノも、向こうから避けられるというモノだ。

「あ?何だよ、一緒に行くの沖田くんだろ?
しかも車回してくれるってんなら別に神楽一人ぐらい増えたって構わねーだろーが。
お前らのがお兄ちゃんなんだから、仲間外れにしないでちゃんと一緒に遊んでやれコノヤロー」
「お母さんか!!
ダメですよ!泊まり先も僕と沖田さんだけの予定だから一部屋だし、いくら沖田さんでも、年頃の女の子が余所の男と同室なんて絶対ダメです!」

だいたい、神楽ちゃんと沖田さんなんて一緒に出かけても喧嘩にしかならないじゃないですか!
と、妙に真剣な顔であくまでヤロー二人で行くと言い張る新八に、銀時と神楽は白い目を向ける。

「…………なんか必死アルな駄眼鏡」
「アレか?もしかしてナンパか?ナンパ目的か?
開放感溢れる真夏の海で新しい出会いと共に童貞卒業でも狙ってんのかコノヤロー」
「チッ!なんでもすぐイベントに頼りやがって、これだから最近の草食系眼鏡はフレームからグダグダだって言われるアル、ネジが緩みっぱなしでグラグラしてるヨ。
あ〜、もう情けなくてワタシ泣けて来るヨ!!」
「ま〜ま〜、そう言ってやるな神楽。
どうせ沖田くんの引き立て役で終わるってのに、あえて挑むその姿勢は評価しようじゃねーか。
よし!じゃあ俺も行ってナンパの基本を見せてやるか」
「うるせー!!口説き原始人の白髪がなんの見本になんだよっ!!つか、アンタも行きたいだけだろーがそれぇぇぇぇっっ!!」

好き勝手言いたい放題の二人に怒鳴り声を上げ、ガチャンと乱暴に立ち上がった新八は、逃げるように玄関へと向かいながら、二人に声を投げた。

「とにかく!2〜3日僕来ませんから!!
二人ともちゃんとゴミの日忘れないで下さいね!
夏場は臭くなっちゃいますから!
あとお腹壊すからチューペッドは一日に2本までですからね!!」

じゃあ、準備あるから僕もう帰ります!と言い残し、そそくさと万事屋を後にする新八を見送った銀時と神楽は、しばらく無言でお互いの顔を見合っていたが、やがてどちらからともなく、ニヤリと黒い笑顔を交わし、急いで朝食を掻き込み始めた。

急いで朝食を済ませた銀時は、しばらく机に向かって何か書き物をしていたが、やがて書き終えると、白い便箋を眺め、中身を確認してから簡単にソレを畳んで封筒へと収めた。

「お〜い、神楽ァ!コレ頼むわ」

銀時がソファーの前で扇風機を独占しながらテレビを見ていた神楽を呼ぶと、神楽は銀時から封筒を受け取り、いつも通りに日傘を持って定春と表へと飛び出した。

ジーワジーワと蝉時雨が五月蝿い路地を見下ろし、すっかり昇り切った太陽を目を細めて見上げ、誰にともなしに銀時は呟く。

「こんだけ暑けりゃ、海にだって行きたくなるわなァ」

それからニヤニヤと嫌な笑いを浮かべ、さ〜て、鬼のいぬ間だな、と言いながら、本日すでに3本目となるチューペッドを取りに、銀時は台所へと向かった。